菊花開(きくのはなひらく)は七十二候のひとつで、寒露(かんろ)の次候にあたります。各地で菊の花が咲き始め、秋の彩りが一層深まる時期を表しています。
意味と由来
「菊花開」は、文字どおり菊の花が開くという意味を持っています。菊は古代中国から日本に伝来した植物で、奈良時代にはすでに観賞用として栽培されていたとされています。やがて日本の秋を代表する花となり、皇室の御紋章(菊花紋章)にも用いられるほど格式の高い花として尊ばれるようになりました。
中国では菊は「四君子(梅・蘭・竹・菊)」のひとつに数えられ、晩秋の霜の中でも凛と咲く姿が高潔な人格の象徴とされてきました。陶淵明の「採菊東籬下」(東の垣根のもとで菊を摘む)という詩句は、隠者の清らかな暮らしを象徴する表現として広く知られています。日本でもこの思想が受け継がれ、菊は長寿や無病息災を象徴する花として大切にされています。
菊は短日植物であり、日照時間が短くなることで花芽を形成するとされています。秋が深まり夜が長くなるこの時期に咲くのは、植物としての特性と季節の移ろいが見事に一致した結果といえるでしょう。現在では電照栽培によって年間を通じて菊を楽しむことができますが、自然の光のリズムに従って咲く秋の菊には格別の趣があります。
この時期の自然と暮らし
- 菊花展・菊まつり — 各地の神社や公園で菊花展が開催され、丹精込めて育てられた大輪の菊が展示されるとされている。菊人形や懸崖仕立てなど、独自の菊文化を楽しめる
- 食用菊 — 山形県の「もってのほか」や新潟県の「かきのもと」をはじめ、食用菊の収穫が盛んになり、おひたしや酢の物、天ぷらとして食卓に上る
- 菊酒 — 菊の花びらを浮かべた酒を飲み、長寿を願う風習が古くから伝えられている。もともとは重陽の節句の行事だが、菊の見ごろに合わせて楽しまれることもある
- 秋の深まり — 朝晩の冷え込みが一段と増し、冬物の準備を本格的に始める時期にあたる。街路樹の紅葉も進み、秋の色彩が街を包む
補足・豆知識
日本における菊の品種改良の歴史は江戸時代に大きく花開きました。大菊・中菊・小菊といった分類に加え、管物(くだもの)、厚物(あつもの)、一文字菊など多彩な花形が生み出され、菊づくりは武士から庶民まで幅広い層に愛好される園芸として発展したとされています。菊人形や菊細工といった独自の文化も各地に根づき、秋の風物詩として今日に受け継がれています。
菊の花は和菓子のモチーフとしても広く用いられており、練り切りや干菓子に菊の意匠がほどこされたものは、秋の茶席には欠かせない存在とされています。また、パスポートの表紙に描かれている花も菊であり、日本という国を象徴する花として国際的にも認知されています。さらに、刺身に添えられる小菊は単なる飾りではなく、菊の持つ殺菌作用を利用した先人の知恵とされています。菊花開の候は、日本文化と深く結びついた菊が秋の庭を華やかに彩る、実りある季節の到来を告げています。
なお、菊には多くの品種があり、花の大きさや色、形はじつに多様です。小さな野菊から直径二十センチメートルを超える大輪菊まで、その種類は数千にのぼるとされています。秋の庭先やベランダで菊を育ててみるのも、この候の楽しみ方のひとつです。初心者には小菊やスプレー菊が育てやすくおすすめとされています。


