楓蔦黄(もみじつたきばむ)は七十二候のひとつで、霜降(そうこう)の末候にあたります。楓(かえで)や蔦(つた)の葉が黄色や赤に色づき、秋の最後を華やかに飾る時期を表しています。
意味と由来
「楓蔦黄」は、楓と蔦が黄ばむ(色づく)という意味を持っています。「黄(きばむ)」とありますが、実際には黄色だけでなく赤やオレンジ、茶色など、さまざまな色合いに染まるようすを広く指しているとされています。
楓は日本の紅葉を代表する樹木で、イロハモミジやオオモミジ、ヤマモミジなど多くの種類があります。手のひらを広げたような葉の形が特徴で、秋になると鮮やかな赤や黄に色づきます。一方、蔦はブドウ科のつる植物で、壁面や木の幹に這うように広がり、秋になると緑から赤へと鮮やかに変化します。楓と蔦という異なる植物を並べることで、山の木も里の壁も一斉に色づく晩秋の風景を表現しています。
紅葉は日本の秋を象徴する自然現象であり、古くから「紅葉狩り(もみじがり)」として人々に親しまれてきました。平安時代の貴族たちは紅葉を愛でて和歌を詠み、紅葉の美しい場所を訪ね歩くことが風流な楽しみとされていました。江戸時代には庶民の行楽としても広まり、名所と呼ばれる場所が各地に生まれたとされています。霜降の末候は秋の最後の節気の最後の候であり、秋という季節の掉尾(ちょうび)を飾るにふさわしい華やかな候名です。
この時期の自然と暮らし
- 紅葉狩り — 平野部でも紅葉が見ごろを迎え、寺社や庭園、渓谷などで紅葉を楽しむ人でにぎわうとされている。ライトアップされた夜の紅葉を楽しむ催しも各地で行われる
- 落ち葉の絨毯 — 色づいた葉が散り始め、道や庭を覆う落ち葉の絨毯が晩秋の風情を演出する。子どもたちが落ち葉を拾い集めて遊ぶ光景もこの時期ならではのもの
- 木枯らしの気配 — 北風が強まり始め、冬の到来を告げる木枯らし一号が吹く地域も出てくる。木枯らしに舞い上がる落ち葉は晩秋を象徴する風景である
- 鍋料理の季節 — 気温の低下とともに温かい鍋料理が恋しくなり、旬のキノコや根菜を使った鍋が食卓の定番となるとされている
補足・豆知識
紅葉のメカニズムは、気温の低下によって葉の中のクロロフィル(葉緑素)が分解され、もともと含まれていたカロテノイドの黄色が現れたり(黄葉)、新たにアントシアニンという赤い色素が生成されたり(紅葉)することで起こるとされています。同じ樹種でも個体差や日当たり、昼夜の温度差によって色づき方が異なるため、紅葉の景色にはひとつとして同じものがありません。一般に、昼と夜の気温差が大きいほど鮮やかに色づくとされています。
「楓」という字は本来カツラ科の樹木を指す中国語ですが、日本ではカエデを意味する漢字として定着しました。カエデという和名は、葉の形が蛙の手に似ていることから「かへるで(蛙手)」が転じたものとされています。また、蔦は「つたもみじ」とも呼ばれ、壁一面を赤く染め上げるようすが秋の街並みに独特の美しさを添えます。楓蔦黄の候は、燃えるような紅葉が季節の壮大なフィナーレを飾る、一年のなかでもとりわけ色彩豊かな時期です。この候が過ぎると暦は立冬を迎え、いよいよ冬の季節が始まります。散り際の紅葉を惜しみつつ、冬への心構えを静かに整える――楓蔦黄の候は、秋の最後の贈り物を受け取る時期です。色づいた葉を一枚拾い上げて、その色と形をじっくり眺めてみるのもよいでしょう。


