鶺鴒鳴(せきれいなく)は七十二候のひとつで、白露(はくろ)の次候にあたります。セキレイが甲高い声で鳴き始めるようすを表しており、秋の訪れを鳥の声で感じ取る候です。
意味と由来
セキレイはスズメ目セキレイ科に属する小鳥で、日本ではハクセキレイ、セグロセキレイ、キセキレイなどが広く見られます。長い尾を上下に振りながら歩く姿が特徴的で、「チチッ、チチッ」という澄んだ高い鳴き声を発します。体長は約二十センチメートルほどで、スズメよりやや大きい程度の小さな鳥です。
セキレイは日本神話にも登場する鳥として知られています。『日本書紀』によれば、イザナギとイザナミの二柱の神が国生みの方法を知らなかったとき、セキレイが尾を振る動作を見て男女の交わりを学んだとされています。このことからセキレイは「恋教え鳥」「嫁ぎ教え鳥」とも呼ばれ、縁起のよい鳥として親しまれてきました。また、セキレイは「石叩き(いしたたき)」という別名でも知られており、水辺の石の上で尾を振る姿がまるで石を叩いているように見えることに由来するとされています。
秋が深まるこの時期、セキレイは繁殖期を終えて活発に鳴くようになるとされています。水辺や田んぼの畦、住宅地の駐車場や公園など身近な場所で見かけることができ、都市部でも比較的観察しやすい野鳥のひとつです。
この時期の自然と暮らし
- セキレイの観察 — 川辺や水田の近くだけでなく、街なかの舗装された場所でもセキレイが尾を振りながら歩く姿が見られ、澄んだ鳴き声が秋空に響く
- 秋の渡り鳥 — 夏鳥が南へ渡る準備を始め、入れ替わるように冬鳥の先遣隊が姿を見せ始める。野鳥の世界でも季節の交代が進む
- 重陽の節句 — 菊の花を愛で、菊酒を飲んで長寿を祈る重陽の節句が行われる時期にあたる。五節句の中では最も知名度が低いものの、古くから大切にされてきた行事である
- 秋の長雨 — 秋雨前線の影響で曇りや雨の日が増え、しっとりとした秋の情緒が漂う。雨の合間に晴れた日は空気が澄んで遠くの山がくっきり見えるとされている
補足・豆知識
ハクセキレイは近年、都市部への進出が目立つようになり、コンビニエンスストアの駐車場やビルの屋上、駅のホームの梁などでも営巣が確認されています。もともとは北海道を中心に生息していた種とされていますが、分布域が南へ広がり、現在では本州各地で一年を通して見ることができます。人間の生活圏に適応しながらたくましく暮らすセキレイの姿は、身近な場所で秋の自然とふれあう機会を与えてくれます。
一方、セグロセキレイは日本固有の種とされ、主に川沿いや渓流に生息しています。ハクセキレイとは生息環境が微妙に異なるため、両種が同じ場所で見られることもあり、その違いを観察するのも野鳥ウォッチングの楽しみのひとつです。散歩の途中で足元を軽やかに歩くセキレイを見つけたら、しばし立ち止まってその愛らしい仕草を眺めてみてはいかがでしょうか。
ちなみに、セキレイは日本の家紋にも採用されている鳥です。「鶺鴒紋(せきれいもん)」と呼ばれる家紋は、尾を振るセキレイの姿をかたどったもので、武家や神社に用いられてきたとされています。日本の自然と文化のなかで長く親しまれてきたセキレイの声に、秋の訪れを感じてみてください。身近な場所で出会える野鳥だからこそ、日々の暮らしのなかでその鳴き声に耳を傾ける機会も多いはずです。


