「蟋蟀在戸」とは?きりぎりすとにありの意味と季節の楽しみ方

蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)は七十二候のひとつで、寒露(かんろ)の末候にあたります。キリギリスが戸口のあたりで鳴くようすを表しており、秋の深まりを虫の声で感じ取る候です。

目次

意味と由来

「蟋蟀(しっしゅつ)」は現代ではコオロギを指す漢字ですが、七十二候では古い用法に従い「きりぎりす」と読みます。ただし、ここでいう「きりぎりす」は現在のキリギリスではなく、古語においてはコオロギを指していたとされています。『枕草子』や『源氏物語』に登場する「きりぎりす」も実際にはコオロギのことであり、名前の指す虫が時代とともに入れ替わった興味深い例です。現代の「キリギリス」と古語の「きりぎりす」は別の虫を指しているため、この候を理解するうえでは注意が必要です。

「在戸(とにあり)」は、虫が戸口のそばにいるという意味です。秋が深まって気温が下がると、虫たちは暖かさを求めて人家の近くに集まってくるとされています。戸口で鳴く虫の声が、秋の夜長の静けさのなかに響くようすは、日本の秋ならではの情景です。

この候の名前には、人の暮らしのすぐそばで虫が鳴いているという親密な距離感が表現されています。野原ではなく戸口で鳴くという描写は、秋の冷え込みが虫たちを人の住まいの近くへと導いていることを示しており、季節が晩秋へと確実に進んでいることを虫の行動を通じて伝えています。

この時期の自然と暮らし

  • 秋の虫の声 — コオロギやマツムシなど、秋の虫たちの鳴き声が夜の静寂のなかにひときわ澄んで聞こえるとされている。気温が下がるにつれて鳴き声のテンポもゆっくりになるといわれている
  • 十三夜 — 旧暦九月十三日の「後の月」を愛でる風習があり、栗や枝豆を供えて月見を楽しむ。十五夜とあわせて「二夜の月」を見ることが良いとされている
  • 秋の夜長 — 夜の時間が長くなり、読書や手仕事、音楽鑑賞などに打ち込むのにふさわしい季節となる。「灯火親しむべし」という言葉もこの時期にふさわしい
  • 冬支度 — 本格的な寒さに備え、暖房器具の準備や冬物の衣類を整える時期にあたる。庭木の冬囲いなどを始める地域もある

補足・豆知識

日本には古くから虫の音を愛でる文化があり、平安時代の貴族たちはコオロギやスズムシを籠に入れて鳴き声を楽しんだとされています。『源氏物語』の「鈴虫」の巻にも、秋の虫の音を楽しむ場面が描かれています。江戸時代には虫売りという商売も盛んになり、秋の虫を買い求めて庭に放つ風習が庶民の間にも広まりました。道灌山(現在の東京都荒川区付近)は虫聴きの名所として多くの人が訪れたとされています。

虫の鳴き声を「声」として情趣を感じる感覚は、日本語話者に特有のものとされる研究もあります。多くの言語圏では虫の音を雑音として処理する傾向があるのに対し、日本語話者は言語を処理する脳の領域で虫の音を認識する傾向があるとされています。蟋蟀在戸という候名が虫の鳴き声に季節の移ろいと情趣を見出しているのも、こうした日本独自の感性の表れといえるかもしれません。秋の夜、戸口に耳を澄ませば、小さな虫たちが奏でる晩秋の調べを味わうことができるでしょう。

なお、コオロギの鳴き声は気温と密接な関係があるとされており、気温が低くなるほど鳴くテンポが遅くなることが知られています。晩秋のコオロギの声がどこか寂しげに聞こえるのは、気温の低下によるテンポの変化も一因かもしれません。

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